世界の飢餓と貧困はなくならないのか?|家畜飼料と食料危機の関係を読み解く

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私たちが今こそ真剣に見直すべきは、世界の食料システム全体です。世界の飢餓を救う鍵は、意外にも「穀物の使い道」に隠されています。

家畜の餌の画像

飢餓の背後に潜む“見えにくい矛盾”

世界の飢餓は、食料不足という単純な問題ではありません。その根底には、私たちの食料システムに深く根ざした構造的な矛盾が存在します。国連の報告によると、2023年時点で7億3,300万人、すなわち世界人口の約9.2%が慢性的な飢餓に苦しんでいます。特にサハラ以南アフリカでは、人口の5人に1人が十分な食事を得られず、多くの子どもたちが発育阻害に陥っています1。これは、食料が不足しているだけでなく、その分配と利用方法に大きな問題があることを示唆しています。

一方で、先進国では膨大な量の穀物が、食卓ではなく家畜の胃袋へと消費され、生産から食卓までの過程での食料ロスも後を絶ちません。飢餓と過剰な畜産飼料消費、そして食料ロスという一見無関係に見えるこれら三つの現象は、実は密接に結びついています。この構造的なミスマッチこそが、世界中で飢餓と貧困を長期化させ、解決を困難にしている大きな要因です。私たちは今、この“見えにくい矛盾”に光を当て、食料システム全体の根本的な見直しを進める必要があります。

餌を食べる牛たち

世界の穀物はどこへ行くのか─家畜飼料利用のパラドックス

世界の食料生産は、飢餓と過剰消費・廃棄という矛盾を抱えています。その象徴が、家畜飼料としての穀物利用です。国連食糧農業機関(FAO)は、世界の穀物生産量の約3分の1が家畜用飼料として消費されていると試算しています2。さらに、経済協力開発機構(OECD)とFAOの農業アウトルックでは、2032年には世界の穀物生産量の37%が飼料用途に回ると予測されており3、この傾向は今後も続くと見られています。

この数字は、私たちが当たり前と考えている食料生産の仕組みに大きな問いを投げかけます。例えば、牛肉1kgを生産するためには、およそ7kgもの飼料穀物が必要とされています。これをカロリー換算で見ると、投入された穀物の8割以上が、畜産プロセスの中でエネルギーとして消費されたり、排泄物として排出されたりすることで失われ、最終的に人が食べられる形ではほとんど戻ってきません。具体的には、同じ畑で生産された穀物を直接人が消費した場合に比べ、畜産を経由して得られる栄養は、わずか10〜20%しか残らない計算になります。

この非効率性は、飢餓問題に直接的な影響を与えています。ある研究報告によれば、「飼料用穀物の10〜26%を人間の食料に転用すれば、最大で10億人分のカロリーとタンパク質を確保できる」とされています4。これは、飢餓に苦しむ人々を救うための具体的な選択肢が、私たちの目の前にあることを意味しています。つまり、世界の穀物の多くは、飢餓に苦しむ人々の口に入るのではなく、家畜の飼料として消費されているというパラドックスが存在するのです。

家畜の餌の穀物

資源コストの現実─水・土地・温室効果ガス

畜産業が食糧システムにおいて中心的な役割を担う一方で、その環境負荷は計り知れません。特に、水資源、土地利用、そして温室効果ガス排出において、その影響は顕著です。

水資源の逼迫

畜産業は、膨大な量の水を消費する産業です。広く引用されるデータとして、牛肉1kgの生産には平均して15,000リットルもの水資源が使われるとされています5。この数字には、家畜が飲む水だけでなく、飼料作物(穀物や牧草)を育てるために必要な水、そして畜舎の洗浄などに使われる水も含まれます。確かに、この「ウォーターフットプリント」の大部分は雨水(グリーンウォーター)が占めていますが、灌漑に用いられる淡水(ブルーウォーター)も決して少なくありません。特に水資源が逼迫している地域においては、畜産のための水利用が、人々の生活用水や農業用水を圧迫し、地域社会に深刻な影響を与えています。地下水の枯渇や河川の水位低下など、水不足に起因する紛争や環境問題も、世界各地で報告されています。

土地利用の拡大と生態系の破壊

畜産業は、地球上の広大な土地を占有しています。放牧地と飼料生産地を合わせると、地球上の陸地面積の約30%が畜産関連に利用されているとされています。これは、森林伐採、特にアマゾンのような熱帯雨林の破壊の主要な原因の一つとなっています。森林を切り開いて大豆やトウモロコシといった飼料作物を作付けすることで、貴重な生態系が失われ、地球規模での生物多様性の損失が進行しています。また、過放牧による土壌の劣化や砂漠化、化学肥料や農薬の使用による土壌汚染も深刻な問題です。肥沃な土地が家畜飼料の生産に転用されることで、人間が直接消費できる作物の生産地が減少し、食料安全保障にも影響を及ぼしています。

温室効果ガスの排出と気候変動への影響

気候変動は、今日の地球が直面する最も喫緊の課題の一つであり、畜産業はこの問題に大きく寄与しています。FAOは、畜産由来の温室効果ガス排出量を世界全体の12〜19%と見積もっています6。この排出源は多岐にわたり、牛などの反芻動物から発生するメタン(ゲップや排泄物)、畜舎の管理や肥料の分解から発生する亜酸化窒素、そして飼料生産や輸送、畜産物の加工・流通に伴う二酸化炭素などが含まれます。メタンや亜酸化窒素は、二酸化炭素(CO₂)よりも地球温暖化係数がはるかに高く、短期的にはCO₂よりも強力な温室効果をもたらします。したがって、畜産由来の温室効果ガス排出は、地球温暖化を加速させ、気候危機の深刻化に拍車をかけていることは疑いようがありません。干ばつ、洪水、異常気象といった気候変動の影響は、世界の食料生産を不安定化させ、結果的に飢餓のリスクを増大させています。

牛豚鶏が穀物を食べる画像

穀物を“人のお皿”へ─飢餓削減の論理

飢餓問題の解決に向けて、直感的には「肉も穀物も両方増産すればよい」と考えがちです。しかし、前述したように、土地、水、そして気候変動という地球規模の制約が、この単純な解決策の前に立ちはだかります。地球の資源は有限であり、無限の増産は不可能です。そこで、より現実的で効果的なアプローチとして注目されているのが、「既存の飼料流通を人間用へ再配分する」という論理です。

このアプローチは、私たちがすでに生産している穀物の大部分を、より効率的に、そして直接的に人々の栄養源として活用することを提案しています。具体的な試算によれば、米、小麦、トウモロコシといった主要穀物のうち、本来人間が直接食べられる部分を家畜に与えず、人へ回すだけで、年間約4億トンもの追加食料が確保できるとされています7。この量は、現在飢餓に苦しむ地域の人々に、十分なカロリーとタンパク質を供給するのに匹敵する、計り知れない潜在力を秘めています。

これは単なる机上の計算上の可能性ではありません。輸送インフラや加工技術を整えれば、現在飢餓に苦しむ地域へ比較的低コストで届けることが可能です。例えば、家畜を飼育するために広大な土地を必要とする代わりに、その土地で直接食用作物を栽培し、それを加工して人々に届けることで、食料供給の効率性を劇的に向上させることができます。また、飼料穀物の生産に投入されていた水やエネルギーを、より効率的な食料生産に振り向けることで、環境負荷の低減にも繋がります。

この「穀物を“人のお皿”へ」という転換は、単に飢餓を減らすだけでなく、世界の食料システム全体の持続可能性を高め、環境保護にも貢献する多角的なメリットをもたらします。それは、食料生産の優先順位を、家畜の飼育から人間の栄養摂取へと見直すという、抜本的なパラダイムシフトを意味します。


持続可能な未来のために、私たちができること

  • 週に一度、動物性食品を減らしてみる
  • 植物性のタンパク質源(豆、レンズ豆、ナッツ)を選ぶ
  • フードロスを減らす、食べ物を無駄にしない
  • 飢餓支援やフェアトレード商品を選ぶ

一人の選択が、やがて世界の仕組みを変える力になります。

トラクターによる家畜の餌かり

変革の潮流─各国・企業・研究者の最新動向

飢餓と環境問題の解決に向け、世界中で食糧システム変革の動きが加速しています。各国政府、企業、そして研究機関が、それぞれ独自の視点から持続可能な食料供給の実現に向けて、革新的な取り組みを進めています。

まず、国家レベルでは、デンマーク政府は肉・乳製品の消費削減を目指す行動計画や課税、支援政策を展開しています。2030年までに二酸化炭素排出量を1990年比で70%削減するという目標を掲げ、具体的には、植物性たんぱく質産業への大規模な投資を拡大し、代替肉や植物性乳製品などの開発・普及を強力に後押ししています8。このような政策は、国民の食習慣の変化を促し、持続可能な食料システムの構築に向けた明確な方向性を示しています。

南米、特にブラジルにおける環境保全の動きが注目されています。「大豆モラトリアム」は、ブラジルのアマゾン地域で森林破壊によって開拓された土地で生産された大豆を購入しないという、主要な大豆関連業者間の自主的な合意です。2006年に締結され、2008年7月以降の森林伐採地に適用されました。一方、「セラード・マニフェスト」は、アマゾンに次ぐ生物多様性の宝庫であるブラジルのセラード地域における森林破壊の抑制を目指す国際的な共同声明です。2018年に発表され、企業、投資家、NGOなどが連携し、サプライチェーンからの森林破壊された大豆の排除、そして持続可能な大豆生産の促進を目指しています。99大豆産業の急速な成長がこの貴重な生態系を破壊しています。特に、家畜や養殖魚の飼料として利益率の高い大豆に対する国際的な需要の高まりが、この問題の背景にあります。セラード地域の保護が喫緊の課題となっています。

企業レベルでは、例えば、ネスレやユニリーバといったグローバル企業は、畜産サプライチェーンの持続可能性向上に力を入れています。これには、再生型農業の推進、森林破壊ゼロを目指す原材料調達の改善、そして飼料効率の向上やメタン排出削減技術の導入、動物福祉の向上などが含まれます。これらの取り組みは、環境負荷を低減し、より持続可能な食品生産システムの構築を目指すものです。

そして、革新的な動きとして、細胞培養肉や発酵由来プロテインといった代替食料技術の急速な進歩が挙げられます。これらの技術は、従来の畜産に依存しない方法で、肉やタンパク質を生産することを可能にします。現在、その生産コストは急速に下落しており、複数の試算では、2030年には従来の畜産コストを下回ると予測されています。これは、「飼料用穀物 → 家畜」という旧来の食料生産モデルを根底から揺るがす可能性を秘めています。これらの技術が普及すれば、広大な土地や大量の水資源を必要とせず、メタンガスの排出も大幅に削減できるため、食料安全保障と環境保護の両面で画期的な解決策となるでしょう。

これらの多様な取り組みは、単なる概念的な議論に留まらず、具体的な行動として現れ始めています。各国政府、企業、そして研究機関が連携し、新たな食料システムの構築に向けて、かつてない規模とスピードで変革の潮流を生み出しているのです。

家畜の餌の画像

私たちにできる七つのアクション

グローバルな食糧システムの変革は、政府や企業だけの責任ではありません。私たち一人ひとりの日々の選択と行動が、飢餓と貧困の解決に貢献し、持続可能な未来を築くための重要な鍵となります。

  1. 週に一度の“プラントベース・デー”を導入する:肉や魚を使わない菜食の日を家庭や職場で設けることで、植物性食品の摂取量を増やし、畜産による環境負荷を軽減できます。これは、食習慣を大きく変えることなく、持続可能な食生活への一歩を踏み出す有効な方法です。
  2. 豆、レンズ豆、全粒穀物など、直接食べられる穀物を意識的に選ぶ:これらの食品は、栄養価が高く、生産に必要な資源も少ないため、持続可能性の観点から推奨されます。加工された食品よりも、素材に近い形で消費することで、食料システムの効率化に貢献できます。
  3. 食材を無駄なく使い切り、フードロスを家庭から削減する:冷蔵庫の整理、計画的な買い物、残った食材の活用など、日々の工夫でフードロスを減らすことができます。世界の食料生産量の約3分の1が廃棄されている現状を改善するためには、私たち一人ひとりの意識が不可欠です。
  4. 飢餓支援団体のマッチング寄付を活用し、少額でも定期寄付を行う:信頼できる飢餓支援団体への寄付は、食料支援だけでなく、農業技術支援や教育支援など、貧困の根本原因解決にも繋がります。マッチング寄付を利用すれば、少額の寄付でも大きなインパクトを生み出すことができます。
  5. フェアトレード認証や生産者支援ラベルの商品を購入する:これらの商品は、途上国の小規模農家に対し、適正な対価を保証し、持続可能な生産を支援します。消費行動を通じて、貧困の連鎖を断ち切り、公平な貿易を促進することができます。
  6. ローカルコミュニティで子ども食堂やフードバンクへ参加・協力する:地域に根差した活動に参加することで、身近なところから食料支援や食の安全保障に貢献できます。ボランティアとして関わるだけでなく、食材の寄付や情報拡散も有効な支援となります。
  7. 学校や自治体に対し、持続可能な給食方針(プラントベースを含む)の採用を働きかける:教育機関や公共機関での食料調達方針は、持続可能な食料システムの普及に大きな影響を与えます。子どもたちが幼い頃から持続可能な食生活に触れる機会を増やすことで、将来の社会変革に繋がります。

これらのアクションは、個人の生活の中で無理なく取り入れられるものばかりです。小さな一歩が、積み重なることで大きな変化を生み出す可能性を秘めています。

家畜のために人間が食べられる穀物を与える。

政策・ビジネス・国際社会への提言

飢餓と貧困の問題は、単一のアプローチで解決できるものではありません。個人レベルの行動に加え、政府の政策、企業のビジネス戦略、そして国際社会の協調が不可欠です。1010ここでは、食糧システム全体を持続可能なものへと変革するための具体的な提言を述べます。

飼料用穀物の透明なトレーサビリティの確立

現在の食料システムでは、どの国の畑で生産された穀物が、どれだけの量が家畜飼料として消費されているか、その全容を把握することは困難です。この不透明性は、非効率な資源利用や環境破壊を見過ごす原因となっています。そこで、飼料用穀物に関しても、生産地から消費地までの透明なトレーサビリティシステムを構築することが不可欠です。ブロックチェーン技術の活用などにより、穀物の生産履歴、輸送経路、そして最終的な用途(人間用食料か、家畜飼料か)を可視化することで、消費者、政策決定者、企業がより賢明な選択を行えるようになります。これにより、倫理的かつ持続可能な調達を促し、不必要な資源の浪費を抑制することが可能になります。

段階的な課税とインセンティブ制度の導入

食糧システムの転換を促すためには、経済的なインセンティブとディスインセンティブの活用が有効です。具体的には、畜産飼料の輸入関税を見直すことや、環境負荷の高い飼料作物に対する段階的な課税を導入することが考えられます。これにより、環境に配慮しない畜産経営のコストを相対的に引き上げ、持続可能な生産への移行を促します。一方で、人間用穀物の供給を優先する農家や、環境負荷の低い植物性タンパク質の生産を行う企業に対しては、補助金や税制優遇などのインセンティブを設計するのです。例えば、水資源や土地利用の効率性が高い代替タンパク質生産技術への研究開発投資に対する税控除などが挙げられます。このような政策は、市場原理を活用しながら、より持続可能な食料生産へのシフトを加速させるでしょう。

公共調達の改革

学校給食、病院・福祉給食、官公庁・企業の食堂の食事など、政府や公共機関による食料調達は、その規模の大きさから市場に大きな影響を与えます。これらの公共調達において、プラントベース(植物性)食材を一定比率で導入することを義務付けることができます。これにより、植物性食材の市場規模を拡大し、生産者にとっては新たな需要が生まれます。また、子どもたちや病院の患者など、公共サービスを受ける人々が、健康的で持続可能な食生活に触れる機会を増やすことにも繋がります。これは、単なる調達方法の変更に留まらず、国民全体の食意識を向上させ、持続可能な食料システムへの移行を文化的な側面からも後押しする効果が期待できます。

国際開発協力とバリューチェーン全体の支援

途上国の小規模農家は、食料システムの変革において重要な役割を担っていますが、その多くは資金や技術の不足に直面しています。先進国は、国際協力を強化し、バリューチェーン全体にわたる技術移転と資金援助を行う必要があります。これには、灌漑技術の改善、持続可能な農業技術の普及、農産物の加工・貯蔵技術の向上、そして市場へのアクセス改善などが含まれます。特に、小規模農家が「家畜の飼料生産」から「人への直接供給」へとシフトできるよう、新たな作物の導入支援や、加工・販売経路の確立に対する支援が不可欠です。これにより、途上国の食料安全保障を強化し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することができます。

穀物の餌を食べる牛の画像

“家畜の飼料”を再定義する勇気

私たちはこれまで、飢餓を「食べ物が絶対的に足りない問題」と捉えがちでした。しかし、本稿で詳述したように、その本質は「何を、誰が、どのように食べるか」という、食料システムの構造的な選択に深く根ざしています。家畜飼料というレンズを通して世界を見直すと、飢餓に苦しむ地域と、膨大な穀物が家畜に与えられている豊穣の地域が、奇妙に、そして悲劇的に重なり合っていることに気づかされます。

世界のどこかで人々が飢えに苦しむ一方で、その人々を養えるだけの食料が、家畜の飼料として消費されているという現実。この“見えにくい矛盾”は、私たちが長年にわたって当たり前としてきた食料生産と消費のあり方に、根本的な問いを投げかけています。

「なぜ、穀物は家畜の飼料なのか?」この問いに向き合うことは、時に不都合な真実を突きつけられるかもしれません。しかし、この問いに真正面から向き合い、そして家畜の飼料という概念そのものを再定義する勇気を持つことこそが、地球上の飢餓と貧困を終わらせるための、最も重要な鍵となるでしょう。

私たちの食卓に並ぶ選択が、世界の飢餓問題、環境問題、そして未来の世代に与える影響を深く理解し、より持続可能で公平な食糧システムへと転換していくこと。それは、私たち一人ひとりの意識の変化から始まり、政策、ビジネス、そして国際社会が一体となって取り組むべき、喫緊かつ壮大な課題です。

日本の「同調性・協調性」が、飢餓と貧困への意識を変える力になる

日本社会は「周囲と調和すること」や「空気を読むこと」を大切にする文化的特性を持っています。一人の強いリーダーや急進的な変革よりも、全体が緩やかに、しかし一斉に変化していく力に長けています。この「同調性」が、ヴィーガンのような持続可能なライフスタイルを新しいスタンダードとして社会に定着させる可能性を秘めています。

たとえば、もしヴィーガンが「健康に良い」「おしゃれ」「人と動物を助ける選択」として受け入れられ、学校や職場、飲食店などで自然に実践されるようになれば、動物性食品の需要が減り、家畜の飼料に使われていた大量の穀物や水資源が、より公平に配分される未来も見えてきます。

日本国内だけでなく、その変化が海外からも「先進的な選択」として注目されれば、日本発の影響が世界に波及することもあり得ます。食の選択は個人の自由でありながら、同時に社会や地球全体の未来に深く関わっているのです。

「みんながそうしているから私も」という動機は、ときに批判されることもありますが、社会全体がより持続可能でやさしい方向へ進むための大きな原動力にもなります。日本人の「同調性」という特性は、世界の飢餓と貧困の構造に静かに風穴を開ける力になるかもしれません。

繊細で器用な日本の食文化が、世界の食料問題を打開するヒントに

日本人が持つ器用さや繊細さ、そして「おいしさ」への深い探求心は、料理や食品開発の分野で世界から高く評価されています。寿司や精進料理、和菓子など、見た目や食感、味のバランスにこだわる職人文化は、日本独自の美意識と技術の結晶とも言えます。

この特性は、ヴィーガン料理や代替食品の開発においても、大きな力を発揮し始めています。動物性の食材を使わずに、まるで本物のような味や食感を再現する技術。植物性の材料で作られたチーズや肉、魚、卵の代替品が、日本人ならではの工夫と技で次々と生まれています。

これは単なる「代替」ではなく、むしろ新たな「創造」です。

こうした繊細な技術によって、ヴィーガン食品が「我慢する食事」ではなく、「豊かで満足できる食の選択肢」として広がっていけば、多くの人が無理なく動物性食品の消費を減らせるようになります。これは、家畜に使われる大量の穀物や水を節約し、人間のための食料資源をより公平に分配することにもつながります。

つまり、日本の職人技と美意識が、地球規模の食料危機や飢餓、貧困の問題をやさしく、けれども確実に変えていく可能性を秘めているのです。

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参考文献:

  1. WHO. Hunger numbers stubbornly high for three consecutive years as global crises deepen: UN report. (2023)
    https://www.who.int/news/item/24-07-2024-hunger-numbers-stubbornly-high-for-three-consecutive-years-as-global-crises-deepen–un-report ↩︎
  2. FAO. The State of Food Security and Nutrition in the World 2023. (2023). https://openknowledge.fao.org/items/445c9d27-b396-4126-96c9-50b335364d01 ↩︎
  3. OECD & FAO. OECD-FAO Agricultural Outlook 2023-2032. (2023). https://www.oecd.org/en/publications/oecd-fao-agricultural-outlook-2023-2032_08801ab7-en.html ↩︎
  4. Science Daily. Changes to animal feed could supply food for one billion people. (2022). https://www.sciencedaily.com/releases/2022/09/220919122239.htm ↩︎
  5. NutriNews. Water Footprint of Beef Production. (2023). https://nutrinews.com/en/the-water-footprint-within-the-cattle-industry/ ↩︎
  6. FAO. Livestock’s Long Shadow: Environmental Issues and Options. (2006). https://www.fao.org/3/a0701e/a0701e00.htm ↩︎
  7. awellfedworld. Feed vs. Food: How Farming Animals Fuels Hunger. ()
    https://awellfedworld.org/issues/hunger/feed-vs-food/ ↩︎
  8. OGN Daily. Denmark Publishes World’s First Plant-Based Diet Action Plan. (2024).
    https://www.onlygoodnewsdaily.com/post/denmark-publishes-world-s-first-plant-based-diet-action-plan ↩︎
  9. Science Advances. Expanding the Soy Moratorium to Brazil’s Cerrado (2019)
    https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aav7336 ↩︎
  10. PubMed Central. How to transition to reduced-meat diets that benefit people and the planet. (2020)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7184671 ↩︎
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