
※ 最初に大切なことは、サプリメントは「必ず飲まないといけないもの」ではありません。
サプリを使わなくても、健康な状態を保っているヴィーガンの方もたくさんいます。
ここでお伝えする内容は、「サプリメントの使用を安易に勧めるもの」ではなく、必要になったときに、どう選び、どう付き合うか を整理したガイドです。
ヴィーガンというライフスタイルは、まず動物から搾取しない、地球環境への配慮、最後に健康意識の高まりを背景に、世界的に広がっています。
一方で、「動物性食品を一切とらないと、栄養が偏って不健康になるのでは?」という懸念の声もよく聞かれます。
しかし結論としては、
- 適切な栄養管理ができていれば、ヴィーガン食は健康的で持続可能な食事パターンです。
複数の研究や管理栄養士による報告でも、適切に計画されたヴィーガン食が、
- 生活習慣病(糖尿病・高血圧・心血管疾患など)のリスク低下
- 体重管理のしやすさ
- 全体としての健康寿命の延伸
につながる可能性が示されています。
ここで大切なのは、「偏るかどうか」は食の“スタイル”ではなく、“マネジメント”の問題だということです。
- 野菜中心でも、糖質や脂質が過多になれば不調は起こり得ます。
- 雑食(一般食)でも栄養設計が雑なら同じように不調が起こります。
正しい知識と少しの工夫があれば、ヴィーガン食は“不健康な選択”ではなく、
むしろ「戦略的な健康づくり」のためのスタイルになり得ます。
このガイドでは、ヴィーガンとして安心して暮らせるように、
- 特に意識しておきたい栄養素
- それをどう食事でカバーするか
- どうしても不足しがちな場合に、サプリメントをどう位置づければよいか
を整理して解説します。
ヴィーガンで不足しやすいとされる主な栄養素
大きく分けると
特に注意が必要で、サプリの利用が強く推奨されやすいもの
- ビタミンB12
不足は、一般的に動物食から切り替えた後、5~6年経過して表れるものです。ヴィーガン食に切り替えてすぐに欠乏することはありません。
人によって不足しやすさが変わるもの
鉄、カルシウム、ビタミンD、オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)、亜鉛など
「一律に足りない」わけではない
ビタミンB12は、植物性食品からはほとんどとれないため、ヴィーガンでは特に意識的な補給が必要です。
その他の栄養素(鉄・カルシウム・ビタミンD・オメガ3脂肪酸など)は、
- 体質
- 日照時間
- 食事内容
- 生活習慣
によって必要量や不足リスクが変わります。
実際に、
- 血液検査で状態を確認しながら、ビタミンB12だけをサプリで補う
という人もいれば、 - 鉄やビタミンDなど、他の栄養素も一緒に補う必要がある人もいます。
「ヴィーガンだからこのサプリを全員が飲むべき」という一律の推奨は適切ではありません。
定期的な血液検査と、個々の状態に応じた判断が大切です。
サプリメント選びで最初に確認したいこと
「ヴィーガン対応かどうか」
購入の際は、必ず動物性原材料が使われていないかを確認しましょう。
よくある例としては、
- カプセルに使われるゼラチン(動物由来)
- 貝由来のカルシウム
- 魚由来のオメガ3脂肪酸(DHA/EPA)
- 乳由来の成分 など
海外の製品には「Vegan」や「Vegetarian」と明記されていることも多く、ヴィーガン認証マーク(例:Vegan Society, Certified Veganなど)が付いていると、判断しやすくなります。
実際に、血液検査の結果を踏まえながら、ビタミンB12のみを意識しているケースもあります。必要な栄養素は人によって異なるため、一律のサプリメント摂取を勧めるのではなく、定期的な確認と個別の判断を大切にすることが重要です。
確かに、皮膚の部分にサプリは関係するので、皮膚をより美しく保ちたいのなら、サプリメントをとるとよいでしょう。
「サプリ=不自然」? という疑問について
動物性食品を食べる人にも、
- 不足しやすいビタミンやミネラルがあり、
- それをサプリや強化食品で補うことがあります。
同じように、
植物性食品を中心に食べる人にも不足しやすい栄養素があり、それをサプリで補うことがあります。
特にビタミンB12については、次の点が重要です。
- ビタミンB12は細菌が作る栄養素であり、現代の畜産では、家畜の飼料に人工的にB12を添加している場合が多いと言われています。
- つまり、多くの人は「サプリメントを与えられた動物」を通してB12をとっているとも言えます。
その意味で、
ヴィーガンが直接B12サプリを利用することは、
「間接的に動物を経由するルートをやめて、より直接的で効率的な方法を選んでいる」
と捉えることもできます。
ヴィーガン食の「強み」と「注意点」
ヴィーガン食(完全菜食)は、動物性食品を一切用いず、植物由来の食材のみで構成される食事スタイルです。ヴィーガン食は食物繊維やカリウム、抗酸化物質が豊富ですが、動物性食品に偏在する、あるいは植物性食品では吸収効率が低い特定の栄養素が存在します。サプリメントは、この栄養の「隙間」を安全かつ効率的に埋めるためのツールであると言えます。
食物繊維・カリウム・抗酸化物質が豊富
- 野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ、種子が中心になるため、
- 食物繊維が多く、腸内環境を整える
- 便通改善や腸内フローラの多様性維持に役立つ
- カリウムを多く含み、
- 高血圧傾向の改善
- ナトリウム(塩分)排出サポート
- ポリフェノール、ビタミンC、カロテノイドなどの抗酸化成分が豊富で、老化や生活習慣病のリスク軽減に関わる可能性が指摘されています。
飽和脂肪酸が少ない
- 肉やバターなどに多い飽和脂肪酸の摂取量が少なくなるため、
- LDLコレステロール(いわゆる「悪玉」)が上がりにくい
- 脂質プロファイル(LDL, HDL, 中性脂肪など)を整えやすい
といった利点があります。
多様な植物性食品から微量栄養素を幅広く確保できる
- 豆類、穀類、種子、ナッツ、野菜、海藻、発酵食品を組み合わせることで、
- ビタミン
- ミネラル
- ファイトケミカル(植物化学成分)
- をバランスよく摂りやすくなります。
くるみ、アマニ、チアシードなどはオメガ3系脂肪酸の良い供給源になります。
慢性疾患リスクの低減が期待される
- 適切に設計されたヴィーガン食は、
- 2型糖尿病
- 高血圧
- 心血管疾患
- 一部のがん
- などのリスク低下と関連する報告があります。
- 野菜や果物を中心とした「低エネルギー密度」の食事は、満足感を保ちつつ総カロリーを抑えやすく、体重管理にも役立ちます。
注意点:不足しやすい/管理が必要な栄養
ここからは、医療者にも利用者にも意識してほしい栄養素について整理します。
ビタミンB12:ヴィーガンにとって最重要
役割
- 神経機能の維持
- 赤血球の生成
- DNA合成
- ホモシステインの代謝(心血管リスクにも関与)
不足すると
- 巨赤芽球性貧血
- 神経障害(しびれ・感覚異常)
- 慢性的な疲労感・集中力低下
- 長期的には不可逆的な神経障害のリスク
なぜヴィーガンは特に注意が必要か
- 植物性食品には、信頼できる量の活性型ビタミンB12はほとんど含まれません。
- 昔は「土壌や発酵食品から摂れていた」という説もありますが、
現代の衛生環境では、食事だけで必要量を確保するのは非常に困難です。
現実的な対策
- ビタミンB12強化食品(植物性ミルク、強化シリアルなど)
- ビタミンB12サプリメント(シアノコバラミン、メチルコバラミンなど)
を組み合わせて、計画的に補うことが推奨されます。
摂取量の目安(参考)
- 日本人の食事摂取基準(2025年版)では、
12歳以上の男女の目安量は 1日あたり約4µg とされています。
※実際の摂取量や頻度は、サプリの種類や個人の状態(吸収能・既往歴など)によって調整が必要です。
定期的な血液検査と医師・栄養士のフォローが望ましい栄養素です。
オメガ3脂肪酸:心血管・脳・眼の健康
主な種類
- ALA(α-リノレン酸):亜麻仁油、チアシード、くるみ など
- EPA・DHA:主に魚介類、藻類
ポイント
- ALAは体内でEPA・DHAに変換されますが、
変換効率は数%程度と低く、個人差も大きいとされています。 - 心血管保護や脳・眼の健康の観点から、
EPA・DHAそのものの摂取も選択肢に入ります。
ヴィーガンの現実的な対策
- 藻類由来のDHA・EPAサプリメントが代表的な選択肢です。
- 魚油サプリに比べて
- 魚臭さが少ない
- 海洋汚染物質(重金属など)のリスクが低い
- 動物性原料を避けられる
という利点があります。
特に、
- 妊娠中・授乳中
- 成長期の子ども
- 高齢者
など、EPA・DHAの必要性が高い時期には、食事とあわせて検討されることが多い栄養素です。
ビタミンD:骨と免疫の基盤
役割
- カルシウム吸収の促進
- 骨の形成・維持
- 免疫調整
- 一部の慢性疾患リスクへの関与が指摘されている
不足しやすい人
- 日光に当たる時間が短い人(屋内勤務・高緯度地域など)
- 日焼け止めを常に使用している人
- 冬季の屋外活動が少ない人
ヴィーガンがとれる主な食品
- 天日干ししたキノコ類
- ビタミンD強化植物性ミルク など
ただし、食事だけで十分な量をとるのは難しい場合が多いため、
- 短時間の日光浴(季節・紫外線リスクと相談)
- 必要時のサプリメント利用
を組み合わせるのが現実的です。
サプリ選びのポイント
- D2(エルゴカルシフェロール):酵母・キノコ由来
- ヴィーガン対応D3:苔類など植物由来
→ 一般に、D3の方が体内利用効率が高いとされています。 - 動物由来(魚油・ラノリン由来)のD3ではないか必ず表示を確認します。
ビタミンDは脂溶性ビタミンのため、過剰摂取に注意が必要です。血中濃度を確認しながら、医療者と相談して使うと安心です。
カルシウム:骨・歯・筋肉・神経
役割
- 骨・歯の構成
- 筋肉の収縮
- 神経伝達
- 血液凝固 など
ヴィーガンでの主なカルシウム源
- 小松菜・チンゲン菜などの葉物野菜
- 豆腐・納豆などの大豆製品
- ごま・アーモンドなどの種実類
- カルシウム強化植物性ミルク
注意点
- シュウ酸やフィチン酸、食物繊維との相互作用で、吸収率が低下することがあります。
- 一般的に、ヴィーガンはやや多めのカルシウム摂取が推奨される傾向があります。
対応
- 食事が偏りがちな場合や、骨粗しょう症リスクが高い場合は、サプリメントや硬水(カルシウムを多く含むミネラルウォーター)を利用する選択もあります。
- サプリでは、乳・貝由来でないカルシウムかどうかを表示で確認してください。
鉄:酸素運搬の要
役割
- ヘモグロビンを構成し、酸素を全身に運ぶ
不足すると
- 鉄欠乏性貧血
- 疲労感・息切れ
- 集中力低下・頭痛
ヴィーガンでの鉄源
- 豆類・レンズ豆
- ほうれん草・ケール
- カシューナッツ
- プルーン など
※これらは「非ヘム鉄」で、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」よりも吸収率が低めです。
吸収を高める工夫
- ビタミンCを多く含む食品(柑橘類、パプリカ、ブロッコリーなど)と一緒にとる
- 鉄鍋や鉄瓶を使った調理(特に、酢やトマトなど酸性のものを用いると鉄の溶出が増える)
サプリの利用について
- 月経のある人・妊娠中・貧血症状がある人などでは、医師の指導のもと鉄サプリを使用するケースがあります。
- 鉄は過剰摂取が問題になりやすい栄養素でもあるため、自己判断での大量摂取は避け、必ず血液検査で確認した上で検討します。
亜鉛:免疫・皮膚・味覚
役割
- 免疫機能
- 皮膚や粘膜の健康
- 味覚の維持
- DNA合成
など多数の酵素反応に関与
ヴィーガンでの亜鉛源
- 豆類
- ナッツ類
- 種子類(かぼちゃの種・ひまわりの種など)
- 全粒穀物
注意点と工夫
フィチン酸が亜鉛吸収を妨げるため、
- 豆や穀物を浸水・発芽させる
- 発酵食品を活用する
- などでフィチン酸を減らす工夫が有効です。
不足が心配な場合は、亜鉛サプリを使うこともありますが、
過剰摂取は銅欠乏や免疫機能低下につながるため、上限量を超えないよう注意が必要です。
吸収率・拮抗相互作用が複雑
- 例えば、豆や穀物を発酵・浸漬・発芽処理することでフィチン酸を減らし、吸収性を改善する工夫が有効とされています。
- また、過剰な食物繊維やフィトケミカルの摂取は、場合によっては他の栄養素(特に脂溶性ビタミンやミネラル)の吸収を妨げる可能性も指摘されています。
“強みを伸ばし、弱みを設計で補う”栄養管理の本質
これらの強みと弱みを踏まえると、ヴィーガン食における栄養管理とは、以下のような双方向的なアプローチと言えます。
- 強みを最大化する設計
→ 食物繊維・抗酸化物質・カリウム・植物性脂質(良質な不飽和脂肪酸など)を日々十分にとるような食材・レシピ選び
→ 豆・種子・ナッツ・全粒穀物・発酵食品・多種類の色野菜・海藻などをバランスよく組み込む
→ 調理法や発酵・浸漬・発芽などの加工技術を活用して、栄養価と吸収性を高める - 弱みを補う設計
→ 差し込み型のサプリメント(B12、D、EPA/DHA、鉄、亜鉛、カルシウム/マルチビタミンなど)を戦略的に併用
→ 吸収促進条件(たとえば、鉄と一緒にビタミンCをとる、亜鉛・カルシウムを一度に大量摂取しないなど)に注意
→ 定期的な血液検査・栄養状態モニタリングを行い、不足傾向を早期に察知
→ 食事のバラエティ維持、加工食品依存の脱却、調理スキル・献立設計能力の向上
このように、ヴィーガン食の“強み”を生かしながら、“弱み”に対する設計的対応を講じることが、長期的に見て健康を維持するポイントです。
サプリメントは、あくまで“補助的ツール”で、適切に選ぶことで、ヴィーガン食が本来的に持つ健康メリットを十分に引き出す支援役になりえます。
ヴィーガン食における必須栄養素とサプリメント

ビタミンB12:ヴィーガンの最重要項目

ヴィーガン食を実践する上で、最も意識的に摂取する必要がある栄養素がビタミンB12です。
ビタミンB12は、神経機能の維持、赤血球の生成、DNA合成に不可欠な栄養素です。
ビタミンB12が不足すると、巨赤芽球性貧血、神経障害、疲労感、集中力の低下などの症状が現れる可能性があります。長期的な欠乏は、不可逆的な神経損傷を引き起こすリスクもあります。
メチオニン合成酵素の補酵素として、ホモシステインからメチオニンへの変換に関わり、この過程で生じるS-アデノシルメチオニン(SAM)は、DNAメチル化を介して遺伝子発現を調節します。これは、遺伝子のエピジェネティクスによる細胞機能の維持や発がんリスクの低減にも関与すると考えられています。
ビタミンB12が不足するとこのサイクルが滞り、動脈硬化や神経障害のリスク上昇が報告されています。B12は神経細胞のミエリン鞘形成にも関わるため、不足が続くと認知機能低下や末梢神経障害につながるおそれがあります。
ヴィーガンは、動物性食品を摂らないため、B12の摂取源が限られます。そのため、
- ビタミンB12強化食品(植物性ミルクなど)
- ビタミンB12サプリメント
からの計画的な補充が推奨されます。 長期的な不足は、疲労感・めまい・息切れ、さらには不可逆的な神経障害を招く可能性があるため、定期的なチェックと補給が重要です。十分な補充によりホモシステイン値を適正に保ち、心血管リスクを下げる効果も期待できます。
なぜヴィーガンはビタミンB12サプリメントを摂るべきなの?
かつては土壌中の微生物や特定の藻類から摂取できるという説もありましたが、現代の農業環境ではこれらを十分に摂取することは困難です。発酵食品や一部の強化食品にも微量含まれることがありますが、それらだけで必要量を満たすのは非常に難しいでしょう。
そのため、ヴィーガンの方にとっては、ビタミンB12のサプリメントを定期的に摂取することが強く推奨されます。シアノコバラミンやメチルコバラミンなどの形態があり、一般的にはシアノコバラミンが安定しており、多くのサプリメントで使用されています。摂取頻度や量は、個人の状態やサプリメントの種類によって異なりますが、日本人の食事摂取基準(2025年版)では、一日の摂取の目安量は、12歳以上の男女では4マイクログラムとなっています。
また、ビタミンB12を含むニュートリショナルイースト(栄養酵母)や、スピルリナなどもあります。メーカーによって形状や味が異なります。
RISE&SUNのハワイアンスピルリナと、ナッシェルのフランス産ニュートリショナルイーストが、お気に入りの2つです。

ビタミンB12は多くの場合、家畜の飼料に人工的に添加される
この事実は、日常的に摂取している動物性食品に含まれるビタミンB12の“出どころ”について、非常に重要な視点を提供してくれます。
ビタミンB12(コバラミン)は、動物の体内では合成できない栄養素です。自然界では、一部の細菌(主に土壌中や反芻動物の腸内にいる菌)がこの栄養素を生成しています。しかし、現代の畜産では以下のような理由から、自然なビタミンB12の摂取が困難になっています。
- 家畜が土壌や糞便由来の細菌に直接触れる機会が減った(衛生管理のため)
- 抗生物質や清潔な飼育環境で、腸内細菌の活動が制限される
- 草食中心では足りないため、濃厚飼料(トウモロコシや大豆など)に人工的に添加する
そのため、ビタミンB12を飼料に人工添加することで、家畜の健康維持や成長、繁殖力を保っているのです。
現代の食生活において、肉・卵・牛乳などの動物性食品に含まれるビタミンB12の多くは、“家畜のサプリメント”由来です。これは、間接的にサプリメントで育った動物を食べていることで、B12を得ているという意味でもあります。したがって、ヴィーガンの人がサプリメントでビタミンB12を直接摂るのは、「自然ではない」という批判には当たりません。むしろ、間接経由をやめて、より倫理的かつ効率的に摂っていると捉えることもできます。
野生動物はどうやってB12を得ているの?
野生動物や自然の中の草食動物は、水や土、微生物が付着した草などを通じて微量のB12を摂取しています。昔の人間も同様で、より自然に近い生活を送っていた時代は、井戸水や野菜の土などから微量のB12を摂っていた可能性があります。
しかし、現代の日本では、水の浄化や農産物の洗浄技術の向上により、自然なB12摂取はほぼ不可能となっており、動物でも人間でも「補う必要がある栄養素」となっています。
オメガ3脂肪酸の代謝と心血管系の保護

オメガ-3脂肪酸は、心血管系の健康、脳機能、目の健康、炎症の抑制などに重要な役割を果たす必須脂肪酸です。オメガ-3脂肪酸には主にALA(α-リノレン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)の3種類があります。
ALAは植物性食品(亜麻仁油、チアシード、くるみなど)に豊富に含まれていますが、体内でDHAとEPAに変換される効率は非常に低いとされています(数パーセント程度)。とくに EPA・DHA は、心血管系の保護因子としてよく知られています。
ヴィーガンにおけるオメガ-3脂肪酸の補給
サプリメントを使用する場合、魚由来のn-3系脂肪酸が含まれていないか確認します。藻類由来が推奨されます。
体内で十分なEPAとDHAを確保するためには、藻類由来のDHA・EPAサプリメントが有効です。魚がオメガ-3脂肪酸を蓄えるのは、彼らが藻類を摂取しているためであり、藻類から直接摂取することで、魚を介さずにこれらの重要な脂肪酸を補給できます。
藻類由来のサプリメントは、魚油サプリメントにありがちな魚臭さや海洋汚染の懸念がなく、環境にも優しい選択肢です。特に妊娠中や授乳中の女性、成長期のお子さん、高齢者など、DHA・EPAの必要量が増える時期には、藻類の意識的な摂取が推奨されます。

ビタミンD:骨と免疫力の土台
ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です。また、免疫機能の調整や細胞の成長にも関与していることが知られています。ビタミンD不足は、骨軟化症、骨粗鬆症、さらに免疫機能の低下や、慢性疲労、うつ病、心血管疾患のリスク増加とも関連します。特に冬季に日光を浴びる機会が少ない地域では、ビタミンD欠乏のリスクが高まります。
ビタミンDは、日光(紫外線B波)を浴びることで皮膚で生成されますが、日照時間が短い地域に住んでいる方、屋内での活動が多い方、日焼け止めを頻繁に使用する方などは、不足しがちになります。脂溶性ビタミンであるため、植物性食品では、一部のキノコ類(天日干し)、強化食品などに含まれますが、ヴィーガン食では摂取源が限られます。
季節・紫外線リスクと折り合いをつけ、短時間の日光浴をルーティン化するのがおすすめです。目安として、ビタミンD不足を気にしつつ、日焼けを避けたい場合は、夏場なら木陰で過ごす時間を含め15分程度、冬場は少し長めの30分~1時間程度を目安に、日常生活の中で「意識的に外に出る」ことが大切です。
ヴィーガンにおけるビタミンDの補給
特に日光に当たることが難しい方は、サプリメントでの補給を検討します。
サプリメントを使用する場合、D3は、魚由来でないか、羊毛から抽出されるラノリンから作られていないか確認します。
ヴィーガン向けのビタミンDサプリメントとしては、D2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)があります。D2は酵母やキノコから、最近では苔類由来のヴィーガンD3サプリメントも登場しています。D3の方がD2よりも体内で利用されやすいとされています。
ビタミンDは脂溶性ビタミンなので、過剰摂取には注意が必要です。医師や栄養士と相談しながら適切な摂取量を決めるのが理想的です。
カルシウム:骨と歯、筋収縮・神経伝達にも
カルシウムは、骨や歯の主要な構成要素であり、神経伝達、筋肉の収縮、血液凝固など、多くの生理機能に不可欠なミネラルです。
乳製品はカルシウムの主要な摂取源として知られていますが、ヴィーガン食では摂取できません。しかし、植物性食品にもカルシウムは豊富に含まれています。例えば、小松菜、チンゲン菜などの葉物野菜、豆腐、納豆などの大豆製品、ごま、アーモンドなどの種実類、強化植物性ミルクなどです。
ヴィーガンにおけるカルシウムの補給
バランスの取れたヴィーガン食を実践していれば、多くの場合は十分なカルシウムを摂取できます。しかし、食事が偏りがちな方や、骨粗しょう症のリスクがある方などは、サプリメントでの補給を検討しても良いでしょう。
カルシウムサプリメントを摂取する際は、ビタミンDと合わせて摂取することで吸収率が高まります。また、一度に大量に摂取するよりも、数回に分けて摂取する方が吸収されやすいとされています。過剰摂取は便秘などの原因となることもあるため、注意が必要です。
炭酸カルシウムやクエン酸カルシウム、乳酸カルシウムの形で摂取するのが一般的です。サプリメントを使用する場合は、乳・貝由来のカルシウムが含まれていない表示を確認する必要があります。

サプリメントまで使用しなくても、気になる場合、硬水のミネラルウォーターという選択肢もあります。
鉄:酸素運搬の中核
鉄は、赤血球のヘモグロビンを構成し、酸素を全身に運ぶ重要なミネラルです。不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こし、疲労感、息切れ、頭痛、集中力の低下などの症状が現れます。
動物性食品に含まれるヘム鉄は吸収率が高いのに対して、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は吸収率が低いとされています。ヴィーガン食では、豆類、レンズ豆、ほうれん草、ケール、カシューナッツ、プルーンなどに鉄分が含まれていますが、吸収率を考慮する必要があります。
ヴィーガンにおける鉄分の補給
植物性食品からの鉄分の吸収率を高めるためには、ビタミンCを多く含む食品(柑橘類、ブロッコリー、パプリカなど)と一緒に摂取することが効果的です。
また、鉄のフライパンで料理したり、鉄瓶で沸かしたお湯で淹れるお茶など、鉄鍋・鉄瓶(ホーロー加工していないもの)を活用すると良いです。
一般の調理に鉄鍋を使用することによりどの程度の鉄が溶出するかについて検討し,以下の結果を得た。
調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化/日本調理科学会誌Vo1.36No.1(2003)
1.鉄の溶出量は添加調味料に影響され,食酢,トマトケチャップ,食塩の順に多く,特に食酢添加における鉄溶出量は顕著に増加した。さらに加熱時間が長いほど,鉄溶出量が増加した。
2.鉄の溶出量は油の使用により減少する傾向がみられた。
3.鉄鍋で調理した食物中の鉄含量はステンレス鍋で調理したものに比べて多かった。
4.鉄鍋,鉄びんから溶出した鉄の78~98%が吸収されやすい2価鉄であり,中でも食酢添加では98%とほとん ど2価鉄で,しかも安定性に優れていた。
以上の結果は,調理における鉄鍋の使用は生体利用性の高い鉄摂取量を増加させ,貧血改善に有効であることを示唆するものである。
貧血の症状がある場合や、生理中の女性、妊娠中の女性などは、鉄分サプリメントの摂取を検討しても良いでしょう。ただし、鉄分は過剰摂取すると胃腸障害・酸化ストレスの懸念があるため、自己判断での大量摂取は避け、医師の助言と血液検査が推奨されます。
亜鉛:免疫・皮膚・味覚
亜鉛は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。免疫機能、細胞の成長と修復、DNA合成、味覚の維持など、300種類以上の酵素の活性に関わる重要なミネラルです。
亜鉛は、植物性食品では、豆類、ナッツ類、種子類(カボチャの種、ひまわりの種など)、全粒穀物などに含まれています。しかし、植物性食品に含まれるフィチン酸が亜鉛の吸収を阻害する可能性があるため、ヴィーガンでは不足しやすくなることがあります。
ヴィーガンにおける亜鉛の補給
発芽や浸水処理を行うことで、フィチン酸の量を減らし、亜鉛の吸収率を高めることができます。また、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収が促進されることもあります。
不足が心配な場合は、亜鉛サプリメントの利用を検討しても良いでしょう。ただし、亜鉛も過剰摂取すると銅の吸収を阻害したり、免疫機能に影響を与えたりする可能性があるため、適切な量を守ることが重要です。
ヴィーガンサプリの選び方:6つのポイント
動物性成分が含まれていないか確認(最重要)
- カプセルのゼラチン、乳由来成分、魚由来DHA/EPA、貝由来カルシウムなどに注意。
- 「Vegan」表記や認証マークがあると判断しやすくなります。
成分と含有量を確認し、過剰摂取を避ける
- 自分の食事パターン・検査結果から「何が足りなそうか」を考え、
必要量に見合った製品を選びます。 - マルチビタミンの場合も、総量が上限を超えないか確認が必要です。
吸収されやすい形を選ぶ
各栄養素の摂取の推奨量や、ご自身の食生活で不足している可能性のある量を考慮し、適切な含有量のサプリメントを選びましょう。
高すぎる含有量は過剰摂取のリスクを高め、低すぎる含有量では効果が期待できません。
サプリメントの過剰摂取は逆に健康を害する可能性があります。例えば、ビタミンDの過剰摂取は高カルシウム血症を引き起こす可能性がありますし、鉄の過剰摂取は鉄過剰症を招く恐れがあります。特に、マルチビタミンなど複数の栄養素を含むサプリメントを摂取する場合、それぞれの成分量を確認し、過剰摂取にならないよう注意する必要があります。
吸収効率の高い形態を選ぶ
- ビタミンB12:シアノコバラミン / メチルコバラミン
- ビタミンD:可能ならヴィーガンD3(苔類由来)
- オメガ3:藻類由来DHA/EPA
- 鉄:ビタミンCと一緒に、カルシウムとは時間をずらす など、「飲み方」も含めて工夫します。
品質と安全性の高いブランドを選ぶ
第三者機関による検査の有無
- 表示どおりの成分量が含まれているか
- 不純物管理がされているか などを確認できると安心です。
継続しやすい価格と形態を選ぶ
- サプリは「続けられるか」が効果に直結します。
- 錠剤・カプセル・粉末・液体など、自分にとって飲みやすい形状を選びましょう。
医師や栄養士に相談する
- 持病がある方
- 妊娠中・授乳中
- 子ども・高齢者
- いくつかのサプリを併用したい場合
は、必ず医療者や栄養の専門職に相談してください。血液検査で栄養状態を把握してから選ぶのが理想です。
サプリメントは「補助」であり「代わり」ではない
最後に、最も大切なポイントです。
- サプリメントはあくまで、不足しがちな栄養素を“補う”ための道具です。
- サプリを飲んでいるからといって、
- 極端に偏った食事
- 超加工食品ばかりの食生活
を続けてよい、という意味ではありません。
サプリなしでも健康でいられる人もたくさんいます。このガイドは、サプリメントの利用を「推奨」するものではなく、
「必要になったときに、どう選び、どう医療者と相談しながら使っていくか」
を整理するためのものです。
ヴィーガンとして健康を支えてくれる土台は、やはり
- 全粒穀物
- 新鮮な野菜・果物
- 豆類
- ナッツ・種子
を、色とりどりに、バランスよく食べることです。
そのうえで、特に不足しやすいビタミンB12などを、必要に応じてサプリで補うことは、
「ヴィーガンとしての健康的な生活を長く続けるための、賢い選択肢」
と言えるでしょう。
まとめ:ヴィーガンとして安心して輝くために
- ヴィーガンという生き方は、動物・地球・自分自身の健康へのやさしい選択です。
- ただし、「ヴィーガン=自動的に健康」でも「ヴィーガン=必ず不健康」でもありません。
栄養の管理次第で、結果は大きく変わります。 - 食事の設計と必要に応じたサプリの活用によって、ヴィーガン食は栄養学的にも、実践的にも、十分成立します。
ご自身の体の声に耳を傾け、
- 定期的な健康チェック(血液検査など)
- 信頼できる情報源からの学び
- 必要に応じた専門家(医師・管理栄養士など)への相談
を組み合わせながら、安心してヴィーガンライフを続けていただけたらとます。



