「ヴィーガン生活って、体にどう影響するの?」そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、管理栄養士の筆者が、2019年にヴィーガン食に切り替えてから2025年までの自身の身体の変化について、約15年間の血液検査データをもとに詳しくお話しします。これはあくまで筆者個人の一例ではありますが、具体的な記録を通じて、ヴィーガンとしての栄養管理の実際をご紹介できれば幸いです。

プロフィールと食生活の変化(2019年)
まずは、私のプロフィールと食生活の変化についてご紹介します。
・年齢:42歳
・性別:女性
・職業:会社員
・家族構成:夫と2人暮らし
・飲酒:時々
・喫煙:なし
私は2019年に、動物性食品と植物性食品を取り入れた一般的な食生活から、完全に植物性食品のみで構成されたヴィーガン食へと切り替えました。
血液検査データの経過(2009~2024年)
私が32歳から47歳までの15年間に行った健康診断の血液検査結果をまとめました。(なお、2014年と2020年は採血を行っていないため、該当年のデータはありません。)
特に注目した検査項目は以下の通りです。
- 血中脂質:総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール
- 血液一般:ヘモグロビン、赤血球数
この期間、肝機能・糖代謝・腎機能については、異常は認められませんでした。
血中脂質:総コレステロール、LDLコレステロール

血液一般(ヘモグロビン・赤血球数)

項目 | 2018年 (導入前) | 2019年 (導入) | 2021年 (導入後) | 2023年 | 2024年 (最新) |
---|---|---|---|---|---|
総コレステロール | 192~212 mg/dL | 151 mg/dL | 166 mg/dL | – | 174 mg/dL |
LDLコレステロール | 111~141 mg/dL | 94 mg/dL | 102 mg/dL | 99 mg/dL | 101 mg/dL |
ヘモグロビン (血色素量) | 13.6〜14.7 g/dL | 13.0 g/dL | 12.7 g/dL | 12.7 g/dL | 13.4 g/dL |
赤血球数 | 430~467 万/μL | 403 万/μL | 399 万/μL | 370 万/μL | 416 万/μL |
グラフの中の赤字は、参考基準値の範囲外を示しています。
2019年:ヴィーガン移行前後の主な変化
コレステロール系(総コレステロール、LDLコレステロール)
- ヴィーガン食への移行後、総コレステロールおよびLDL(悪玉)コレステロールの値が低下し、その後はやや上昇しつつも導入前より低めの水準で安定しています。
- 特にLDL(悪玉)コレステロールが大きく減少し、これは植物性食事の影響と考えられます。
血液の酸素運搬能(ヘモグロビン・赤血球数)
- ヴィーガン食への移行後、ヘモグロビン・赤血球数にやや低下が見られます。2023年に、赤血球数の減少とともに、MCV(平均赤血球容積)の高値が確認されました。MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は基準範囲内でしたが、ビタミンB12不足による巨赤芽球性貧血の可能性が示唆される結果となりました。
ビタミンB12サプリメントの導入(2023年)と変化
2019年以降、ヘモグロビン値と赤血球数がやや低下が見られ、その後も2021年、2022年と、赤血球数のわずかですが、減少が見られたため、栄養状態の改善を目的に、ビタミンB121を含むサプリメントの摂取を開始しました。いずれも、健診を受ける約2か月前から継続的に取り入れています。
- 2022年:ビタミンBミックス(錠剤)
この年は、ビタミンB群を含む錠剤タイプのサプリメントを服用しましたが、血液検査の数値に明確な改善は見られず、体との相性が十分でなかった可能性を感じました。 - 2023年:スピルリナ(ハワイ産、100%天然由来)
より自然な形での栄養補給を目指し、精製度の低いハワイ産のスピルリナに切り替えました。スピルリナは藻類由来で、植物性たんぱく質とともにビタミンB12の供給源としても知られています。この年の血液検査では、すべての項目が基準値内に収まり、明らかな改善が確認されました。これらの変化は、スピルリナの継続的な摂取による影響が大きいと考えています。 - 2024年:スピルリナと栄養酵母(ニュートリショナルイースト:フランス産)の併用
栄養酵母は料理に取り入れやすく、特にパスタなどにティースプーンに1杯程度ふりかけて使っています。チーズに似た風味があるため、日常の食事にも自然に馴染み、無理なく継続できています。栄養酵母を使用していない日に、スピルリナの錠剤を服用し、安定的なビタミンB12の摂取を心がけています。
これらの経験を通して、サプリメントの「質」と「体との相性」が非常に重要であると実感しました。なお、ビタミンB12の吸収率は製品の種類や摂取形態によって大きく異なることが指摘されています2。
ヴィーガン移行後の栄養バランスとエネルギー比率の調整
ヴィーガンへの移行で、動物性食品(肉、魚、卵、乳製品)を避け、植物性食品中心の食生活に切り替わりました。
その結果、穀類(米、パン、麺など)、いも類、豆類、果実類の比重が高まり、自然と炭水化物の摂取量が増加しました。これは、動物性食品を含む従来の食生活に比べて当然とも言える変化です。
- 炭水化物エネルギー比率:65%を目標
植物性中心の食事でも、エネルギー源としての炭水化物を過不足なく活用するための目安です。 - 脂質エネルギー比率:20%を目標
植物由来の良質な食材として、アボカド、米油、エキストラバージンオリーブオイル、ごま油などの油脂類、ピーナッツなどのナッツ類を意識的に取り入れました。 - たんぱく質エネルギー比率:15%を目標
大豆製品(豆腐・揚げ・納豆・大豆ミートなど)、豆類(小豆など)を積極的に摂り、穀類やナッツと組み合わせることでアミノ酸スコアの補完も可能です。

ヴィーガン生活による身体と心の変化
5年間のヴィーガン生活で感じた主な変化は以下の通りです。
- 体重は一時的に5kg減少し、半年ほどで元に戻る
- 毎年ひいていた風邪をひかなくなった
- 歯科検診で「口腔内がきれい」と言われるようになった
- 台所の油汚れも植物性になり、掃除が楽になった
- 白髪が明らかに減少した
- 外食や集まりでは気を使う場面もあるが、3年で慣れた
- 精進料理の本で読んだ「心も身体もきれいになる」を実感する
- 動物性食品を避けることで、心が軽くなったと感じる
- 生理痛の大幅な軽減(ヴィーガン5年目の2025年に解消)
- 動物性の出汁(かつおだしなど)を含む料理を口にしてしまったときに、まとわりつくような感覚になる
ヴィーガンでも栄養管理は可能─専門知識と実践から見えてきたこと
管理栄養士としての立場から言えるのは、ヴィーガンであっても、栄養管理は十分に可能であるということです。厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準」に基づいて食事を設計することもできますし、必要に応じて血液検査などのデータをもとにしたオーダーメイドの栄養管理も実現できます。これは、理論上の話ではなく、実際の現場でも対応可能な範囲です。
かつての私は、サプリメントに頼らない自然な食生活を理想としていました。しかし、ヴィーガンになってから、動物を犠牲にしないという観点からも、サプリメントの役割を改めて見直すようになりました。特にビタミンB12は、植物性の食品から摂取するのが難しいため、サプリメントを取り入れることは、倫理的で実践的な選択だと捉えています。
ビタミンB12についての補足
ビタミンB12は微生物(細菌)がつくる

ビタミンB12は、肉や魚、卵、乳製品といった主に「動物性食品に多く含まれている栄養素」というイメージがあるかもしれません。しかし、その由来は微生物です。ビタミンB12は、土壌や水中に生息する特定の細菌によって合成されるものであり、人間や動物の体内で作られるものではありません。
現代では、衛生管理の徹底によって私たちの生活環境は格段に清潔になりましたが、それに伴い、もともと土壌や微生物から自然に摂取できていたビタミンB12は、日常的に摂りにくい栄養素へと変わってきました。水道水の殺菌や野菜の洗浄、土との接触機会の減少などにより、自然界のB12供給源が身近なところから失われてきています。
現代の畜産においては、家畜に与えられる飼料にビタミンB12が人工的に添加されており、動物性食品を通して消費者はその「添加されたビタミンB12」を摂取しているのが実情です。
したがって、ヴィーガンやベジタリアンであっても、微生物由来のビタミンB12を直接サプリメントなどで摂取することで、十分に補給が可能であり、動物性食品に依存しなくても、十分な栄養補給はできるのです。
ビタミンB12の役割
- ビタミンB12は、補酵素として、アミノ酸の代謝に関わっています。
- ビタミンB12が欠乏すると、巨赤芽球性貧血、脊髄及び脳の白質障害、末梢神経障害が起こる可能性があります。
- ヴィーガンがビタミンB12を摂取する方法として、サプリメント、ビタミンB12強化食品(植物性ミルク、シリアル、栄養酵母など)などがあります。
- 日本人の食事摂取基準(2025年版)によると、成人のビタミンB12目安量は、1日あたり約4.0㎍です。3
ヴィーガンスタートのトップページへ⇒
- 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』海外の情報 ビタミンB12
https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/07.html ↩︎ - スポーツ栄養Web. ビーガンのビタミンB12不足はサプリメントでも補えない可能性 18~44歳の女性1,530人を調査. https://sndj-web.jp/news/002570.php ↩︎
- 健康長寿ネット ビタミンB6/B12の働きと1日の摂取量
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-b6.html ↩︎